下肢静脈瘤レーザー治療センタ― 院長ブログ 〜手術室と診療現場より〜

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下肢静脈瘤・肺梗塞・脳梗塞・心筋虚血-皇后陛下の検査所見を受けて

      2018/10/31

下肢静脈瘤は静脈の疾患の一つです。下肢静脈瘤は基本的には命に関わる疾患ではありませんが、深部静脈血栓症や肺梗塞(エコノミークラス症候群)との関連性も指摘されるなど、軽視できないところはあります。一方、さまざまな血管の病気の中でより注目されるのは、命に関わる可能性の大きい動脈の疾患、すなわち動脈硬化症脳梗塞心筋梗塞などです。

先日、皇后陛下が動脈の病気の一つ「心筋虚血」(心筋梗塞に関連する)が疑われ、東大病院で冠動脈造影CT検査を受け、その結果が以下のように公表されました。

「3本の冠動脈のうち、1本に2カ所、他の1本に1カ所、動脈硬化による狭窄を確認した。いずれも比較的軽度で、ほかに胸痛の原因となる狭窄は認められなかった。これまで通り日常生活を続ける一方、激しい運動を避け、心身に強いストレスを与えないよう配慮が望まれる。」

この結果に対して、皇后陛下の予後について血管外科として解説をして欲しいと頼まれたので、以下のように回答しました。

「心臓に届く血液が不十分だと、心臓の筋肉が酸素不足に陥り心筋組織に障害が生じます。供給されるべき血液(酸素)が長時間不足すると心筋の細胞が壊死に陥り心筋梗塞と呼ばれる状態に至ります。心筋梗塞になる前に血流が再開され障害が解除されると心臓は正常の状態に戻りますが、その時に起きた病状を狭心症と呼びます。

心筋梗塞は心臓に血液を届ける血管(冠動脈)の内腔が血栓などにより完全に閉塞した状態が持続することによって生じます。また、狭心症は、心筋梗塞に進展しにくい安定狭心症と、心筋梗塞に進展する可能性が大きい不安定狭心症とに分けられます。

心臓を養う主たる冠動脈は、右冠動脈(RCA)、左冠動脈前下行枝(LAD)、左冠動脈回旋枝(LCx)、特にLADとLCxが分枝する前の左冠動脈主幹枝(LMT)に分けられますが、どの枝のどの部分の血管が閉塞するかによって、血液の環流が遮断される領域が異なります。例えばLMTに血管遮断が起きると心臓の広範囲にわたって血行障害が生じます。一方LCxの末端近くが狭窄した場合などは血行障害が生じる範囲は比較的小範囲になります。

すなわち、冠動脈のどの部分が狭窄を来しているかの情報が、現症の重症度の評価と予後予想には必要になります。

また、狭窄の原因が、線維性の安定プラークによるのか、不安定プラークなのかによって、その後、完全閉塞が発生するリスクが異なります。安定プラークによる狭窄の場合は心筋梗塞に移行するリスクは比較的少ないのですが、不安定プラークの場合はその破裂によって血管が完全に閉塞して急性心筋梗塞が惹起されるリスクが大きくなります。

つまり、狭窄があっても、いずれのタイプのプラークが狭窄の原因であるかによって予後が全く異なります。例えば、線維性の安定プラークであれば狭窄がLMTに生じていても治療に急を要さないことが殆どです。

また、不安定プラークの成長及び破裂の原因として、高血糖、脂質異常、活性酸素過多、高血圧などが挙げられ、それらが背景に存在しているか良好に管理されているかなどの情報が予後の予測には必要となります。

皇后陛下が現在どのような状態であるかが今後の予後予想には重要です。例えば、糖尿病、脂質異常症、高血圧を患われている場合は、重症化するリスクが比較的大きいと言えます。

そして、激しい運動などにより心臓の大きな拍出が必要になると、心筋にかかる負担が大きくなり、心筋が必要な酸素量(すなわち心臓への血液供給量)が増え、冠動脈の軽度な狭窄でも心筋に届く血液量が不十分になることがあります。その場合は心筋虚血に伴う痛みが発生することがあります。

ですので、安静にしていれば血液供給量が少なくても虚血による症状が出ない場合があります。

また冠動脈造影CT検査で問題がなくても、心臓カテーテル検査で問題が発見されることがありますが、カテーテル検査は検査負担がやや大きいのでCT検査で特に危機的な所見がなければカテーテル検査は見送ることが普通です。

以上も踏まえて皇室医務主管から発表された内容を改めて見ると、予後予測に必要な情報は十分ではありませんが、

「3本の冠動脈の1本に2カ所、もう1本に1か所の狭窄があるものの、いずれも軽度で投薬加療も開始されていない」という最低限の情報と、追加検査(心臓カテーテル検査)などが準備されていないことを考えれば、致死的な心筋梗塞が引き起こされるリスクは低いと評価していると判断されます。先日の症状が心臓に由来したものだとしたならば、脱水や心臓血管の震え(攣縮)によって心筋に必要な血液が届かない一過性の心筋虚血(安定狭心症)が発生したと考えているようです。

心臓に負担がかかるような激しい運動は心臓の血液需要を増やします。また、ストレスは心臓の血管の震えを引き起こします。よって発表されたような注意点が示されたのでしょう。

生体現象は画一的でない中で与えられた情報は限られており、絶対的な評価は難しいですが、一般的な見解として上記のことが言えると思います。

平成27年8月11日 北青山Dクリニック 阿保義久」

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