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下肢静脈瘤とは

 下肢静脈瘤とは、下肢(かし)すなわち脚や足の表面を走行する静脈が、ぼこぼこと瘤(りゅう、こぶ)のように盛り上がったり、クモの巣や網目状に青や赤の血管が浮き上がったりする疾患です。基本的には自然に回復することはなく時間と共に徐々に悪化しますが一般的に進行は緩徐です。しかし、重症化すると潰瘍や血栓症などが発生し、治療に難渋する場合があります。非常に多くの方に発症することが特徴で、40歳以上の10%前後、妊娠出産経験者の50%に発症するなどと報告されています。潜在的な方も含めると相当多数の患者人口になるようです。  見た目が気持ち悪い、温泉に行けない、短パンになれない、スカートがはけない、など患者さんの悩みは往々にして深刻なのですが、医療機関側ではあまり重視して取り上げてこなかった疾患とも言えます。


下肢静脈瘤の原因と発生メカニズム

◆ 原因

心臓から脚に送られた血液の還流が正常に行われなくなることで引き起こされます。血液還流が正常に働かなくなる原因を整理すると、以下のようになります。

  • ① 下肢の筋肉が衰えている
  • ② 呼吸が浅いため、胸腔内の陰圧状態が不十分である
  • ③ 腹腔内圧が上昇している
  • ④ 血液粘度が濃い(いわゆるドロドロ血)
  • ⑤ 長時間の逆流負荷(立ちっぱなし)や過度な運動により逆流防止弁が壊れる

その他にも、肥満・背が高いといった体型、遺伝なども影響しています。
また、女性ホルモンの影響で血管硬度が柔らかく、瘤ができやすい状態にある妊娠・出産も原因になります。

◆ どのように静脈瘤ができるのか?

血管壁の構造

動脈も静脈も、内腔側から内膜、中膜、外膜の三層構造となっています。内膜は、結合組織により支持された血管内皮細胞で構成され、その内腔表面は滑らかで薄い被膜となっており、スムーズな血液の流れを維持するとともに大きな分子が血管から拡散するのを抑える役目があります。次の層は、中膜で、コラーゲン繊維や平滑筋細胞で構成され、3つの層の中で最も厚く、血管の弾力性をつくっており、血管の弛緩・収縮に最も重要な部分です。最も外層である外膜は血管の動きを支配する神経や血管に栄養や酸素を供給する非常に小さな栄養血管が存在しています。
また、静脈は動脈と異なり、内腔に弁があり静的な流れが逆流を起こしにくい構造になっています。まさに、動脈の中では血液は動的に速く流れており、静脈内ではゆっくりと静的に流れています。静脈はその伸展性の大きさから、〝容量血管″とも表現でき体内を循環する血液のうち70-80%を含んでいます。

静脈が拡張する理由

静脈が拡張する理由基本的には動脈と静脈は同様の構造を有していますが、一般的には静脈は動脈に比べて内腔が大きく、中膜が薄いため、拡張しやすい特徴があります。
静脈は、動脈同様、加齢とともに中膜の弾性線維が減少して血管壁の弾力性が低下し、平滑筋細胞の萎縮・変性に伴って膠原線維が増えて血管壁の硬度が上昇します。
静脈は、血流が静的であり、逆流防止弁があるために血管内腔への刺激が動脈に比べて弱いのですが、四肢の筋肉が弱って還流ポンプ力が小さくなったり、重力の影響による逆流圧を長い間受けているうちに、血管内の血流圧により血管内膜や中膜が傷つき、修復されます。それが、繰り返される度に血管壁は厚くなり、そもそも進展しやすい血管壁は拡張していくと考えられます。
女性ホルモンの一つである黄体ホルモンは、血管壁を柔軟にする性質があるため、妊娠などで黄体ホルモンの分泌が高まるとことさら静脈は進展しやすくなります。

逆流防止弁が壊れて、血管が拡張してしまう

私たちの体は、常に心臓を中心に血液を循環させることによって、体中に酸素や栄養を供給しています。
動脈を通じて心臓から足へ送り出された血液は、横になっているとき以外は重力の抵抗に逆らって心臓に戻ってくることになります。
足の血液を心臓に戻す駆動力として横隔膜、肋間筋などの呼吸筋やふくらはぎの筋肉が非常に重要です。呼吸筋の作用により胸腔内が陰圧になると、下肢の血液が心臓の方へ引き上げられます。 そして、足に溜まった血液を心臓に戻すうえでより重要な働きをするのは、ふくらはぎの筋肉です。それは、ポンプの役割をして、心臓から送られてきた血液を心臓へ押し戻します。ふくらはぎの筋肉が第二の心臓と呼ばれる所以です。
しかし、ふくらはぎの筋力は常に一定の力で静脈血を押し戻し続けているわけではなく、押す止まるを繰り返しています。押し戻す力が止まる時、静脈血は、重力により足先の方へと下がろうとします。

このとき静脈血が逆流しないよう防いでいるのが、静脈内部にある逆流防止弁です。下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、この逆流防止弁が壊れて、正常に働かなくなったために起きる病気です。逆流防止弁が壊れることにより、血液の逆流が起き、血管が拡張します。拡張した血管は、足の表面に太く浮き出たり、瘤のように膨らんだりします。そのように下肢にできる瘤(こぶ)が下肢静脈瘤です。

そして、実際にこの症状が発生する際には、表面の静脈が深部静脈に流入する場所の逆流防止弁が壊れることがきっかけになりますが、その壊れやすい場所は決まっています。
人が立った状態でじっとしているときには、筋肉ポンプはあまり働かず、血液が心臓に戻るスピードは遅くなります。しかし、心臓から送り出される血液は一定であるため、脚に多くの血液が溜まることになります(血液の鬱滞:うったい)。すると、静脈内の圧が上昇し、静脈も逆流防止弁に強い逆流圧がかかります。 その負担が度重なると、弁は逆流圧に耐えきれず変形して、あいだに隙間ができ、血液の逆流が起こります。それが、進行すると弁は完全に壊れてしまい、逆流防止の機能を全く果たさなくなります(弁不全)。
そうなると、血液は大量に逆流して、脚の下のほうに溜まり、血液をため込んだ血管が引き伸ばされて、静脈瘤が作られてしまうのです。

逆流防止弁が壊れやすい場所

下肢の静脈は、解剖学的に筋膜の奥の筋肉の中にある深部静脈と皮下を走行する表在静脈に分けられます。表在静脈は脚の付け根と膝の裏で深部静脈に合流します。他に表在と深部の静脈は穿通枝と呼ばれる筋肉を貫く短い血管によってもつながっています。
表在静脈には代表的な2つの系統があります。1つは、足首の内側から下肢、太股の内側を通って鼠径部(太股の付け根)で深部の大腿静脈に合流する大伏在静脈です。もう1つは、踵(かかと)の外側からふくらはぎの真ん中を通って、膝の裏で深部の膝窩(しつか)静脈に合流する小伏在静脈です。これら2つの静脈は、多くの枝によってつながっています。

血液の逆流を防ぐ弁の中で壊れやすいのは表在静脈と深部静脈の合流点で、特に脚の付け根と膝の裏にある合流点の2か所に弁不全が生じます。

脚の付け根と膝の裏の他に弁が壊れやすい個所としては、不全穿通枝と呼ばれる表面の静脈と深部静脈のバイパス静脈の部分や、卵巣周囲の内臓の静脈などが挙げられます。



下肢静脈瘤の症状

人により症状はそれぞれ異なりますが、以下のような症状のある方は注意が必要です。
<足の各部位が>
こむら返り・だるい・重い・疲れる・ほてる・痛い・むくむ・かゆみ・色素沈着・潰瘍・皮膚炎等・・・。

◆症状をもっと知りたい方はこちら



下肢静脈瘤ができやすい人の特徴とは?

症状が軽いものまで含めると、30歳以上の男女では62%もの人に、静脈瘤が認められたという報告もある身近な疾患です。
特になりやすい方が、女性(出産の経験がある方の割合が高い)、高齢の方、遺伝的な要因で親族に疾患経験者がいる方が発症しやすいと考えられます。また、激しいスポーツ(フルマラソン、サッカー)を日常的に行っている方、高身長である方なども多い傾向にあります。

◆なりやすい人の特徴をもっと知りたい方はこちら



下肢静脈瘤の種類

◆ 大伏在静脈瘤

 下肢の静脈は深部静脈系と表在静脈系に分けられ、下肢の血流のほとんどは深部静脈を介して心臓に戻ります。下肢の血行の一割くらいを担う表在静脈が静脈瘤をつくります。足にある表在静脈の中で、最も高頻度に静脈瘤を形成するのが大伏在静脈です。大伏在静脈は足首の内側から上行して足の付け根で深部静脈に合流する表在静脈です。その本幹および主要分枝に発生するのが、大伏在静脈瘤です。発生部位は下腿から大腿部内側、下腿の外側、大腿部の背側になります。

◆ 小伏在静脈瘤

 小伏在静脈瘤は、大伏在静脈瘤に次いでよく見られる静脈瘤です。小伏在静脈はアキレス腱の外側から上行して膝の裏で深部静脈合流する表在静脈です。発生部位は大伏在静脈瘤と同様ですが、足首の後ろや膝の後ろになります。

◆ 側枝静脈瘤(分枝静脈瘤)

 伏在静脈本幹から枝分かれした静脈が拡張してできたものを言います。主に膝から下の部分に見られ孤立性のことがあります。伏在静脈瘤よりやや細いのが特徴です。

◆ 陰部静脈瘤

 卵巣や子宮周囲の静脈から逆流してきた血液により作られる静脈瘤です。そのため、月経時などで卵巣や子宮への血行が増えると症状が強くなります。ボコボコとした蛇行血管が足の付け根から太ももの裏側を斜めに走って下腿まで広がる場合は、陰部静脈瘤の疑いがあります。

◆ 網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤

 網目状静脈瘤は細い皮下静脈(径2~3㎜)が網目状に広がっている静脈瘤です。もう一方のクモの巣状静脈瘤とは、網目状のものより細い真皮内静脈瘤(径0.1~1㎜)です。網目状、クモの巣状静脈瘤は伏在静脈瘤のようなぼこぼことした盛り上がりはありません。



下肢静脈瘤の検査法

①ドップラー血流計

 ドップラー血流計は、赤血球に超音波をあてて、血液の流速の変化を音としてあらわし、その音の変化によって、血管内で逆流が起きているかどうかを調べるものです。

 万年筆より少し太い「ブローベ」という器具を、皮膚の上から血管にあてます。そうして、ふくらはぎを手でつかむように圧迫すると、血液が上に押し上げられて、ザッという短い音がします。次に手を離して圧迫を解くと、血液の逆流が起こっていなければ、音はしません。逆流があったときは、ザーッという長い音がします。

②カラードップラー検査

 カラードップラー検査は、超音波を利用して、血液の流れを、カラー画面で表示するため、異常が視覚的にわかります。内臓のエコー検査と同等です。

 ブローベを、皮膚の上から血管にあて、画面に映し出された映像で判断します。カラードップラー検査では、画像で血管の短軸像(輪切りの状態)と長軸像(縦に切った状態)を、観察することができます。血液の流れを色分けして表示するのみではなく、音や波形でも逆流の有無を表現できます。

 その他にも、血管の内径を測ったり、血流の流速を測定したりすることもできます。画像で記録に残すことができ、ほとんど全ての下肢静脈瘤の診断はこの検査のみで可能です。

③容積脈波検査

 血液の逆流を調べるのが、ドップラー血流計、カラードップラー検査です。

 「容積脈波検査」は、足の静脈の機能を詳しく調べる検査です。

 検査方法は、足に、マンシェットという空気で膨らませるカバーを巻き、つま先立ち運動をしてもらいます。足の運動による静脈の容積変化を調べることで、筋肉のポンプ作用や血液の逆流の有無がわかります。とても簡単で短時間でできる上に、痛みや苦痛がなくストレスのない検査方法ですが、どの部位に下肢静脈瘤が発生しているかはわかりません。


下肢静脈瘤の治療法

2011年以降、一般的な静脈瘤である伏在型のタイプに血管内レーザー治療が保険で実施できるようになってから、その治療を実施する医療機関が全国に広がりました。そして、2014年には、高い治療効果が期待される1470nmのレーザーや手術時間が短い高周波による治療も保険認可され、下肢静脈瘤の治療を専門とする医療機関が激増しています。いわばこの専門クリニック開業ブームが沸き起こっています。
 そもそも、本疾患に対する根治手術としてストリッピング手術と呼ばれる血管を引き抜く手術は、100年以上も前から行われてきました。この治療法は、皮膚に数カ所の切開が必要なのと、術後の出血や神経障害のリスクが比較的大きく、基本として入院加療となるため、医療機関側が安易に治療に進まない傾向にありました。患者さん側にも、そこまでして治療しなくても良いという心理がはたらき、弾性ストッキングによる圧迫治療をするのみで様子を見るか、治療をあきらめて放置する方が多かったようです。その結果、重症化してからようやく手術に進むケースが目立ちました。重症化してからの治療は、治療後の回復に相当の時間を要する上に、完全に回復しないことがあります。早期に負担のかからない治療が長い間求められてきたのです。
 北青山Dクリニックは、治療が結実できずに苦しむ患者さんの悩みを解消するため、根治手術であるストリッピング手術を外来で実施する手法を考案して2000年から積極的に提供してきました。以来、全国から多くの患者さんが治療を希望して来院されています。さらに、高波長レーザーや高周波による低侵襲の治療が普及したことにより、益々多くの患者さんが治療に進みやすい環境が整ってきました。
 下肢静脈瘤は、放置すると進行し重症化し得ます。そして、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症、肺塞栓症)の直接の原因ではないものの、それらが発症する危険因子の一つです。必ずしも緊急治療が必要ではありませんが、症状に悩まされている方は早期に治療をすることをお勧めします。

下肢静脈瘤の治療法


下肢静脈瘤の手術を受けた方が良い理由

◆ なぜ手術をした方がいいのか

手術を受けた方が良い理由は、以下のようにまとめられます。

1.壊れた末梢の拡張血管、及び弁不全をきたして深部静脈を流れる血液を末梢に逆流させている伏在静脈は正常な血液還流の点で機能していない。

静脈が拡張する理由2.弁不全により一旦逆流した血管や拡張して瘤(こぶ)のように膨らんだ血管は、放置して治ることはなく徐々に悪化していく。

3.悪化していくだけでなく、正常な血管にも静脈瘤が広がっていく。

4.進行すると難治性の下腿潰瘍や血栓症など重篤な症状に陥る可能性がある。

5.レーザーや高周波による血管内治療は体への負担が少なく入院が不要で手術後も日常生活に速やかに復帰できる。また、従来の根治的治療に勝るとも劣らない治療成績が期待できる。

6.早期に治療をすればするほど、回復も早く完全に症状から回復できる可能性が大きい。

◆ 下肢静脈瘤を放置するとどうなるか

下肢静脈瘤を発症してしまった場合、そのまま放っておいて自然に治るということは基本的にはなく、進行の速度に個人差はあるものの、通常は徐々に悪化します。極めてまれに血管に血栓ができて静脈瘤自体は改善することがあります(1万例に3例 程度)が、非常に強い痛みを伴います。専門医による治療を受けなければ、根治することはもちろんのこと、改善することはないといってよいでしょう。
下肢静脈瘤を発症したとしても、それが直接的な死因になることや、足が壊死を起こすということも、足を切断しなければならないということもありません。進行はゆっくりであることが殆どなので、実際は放置されがちです。しかし、進行し、重症化すると、痛みが生じたり、皮膚に潰瘍が発生して治らなくなったり、 ひどい血栓症に陥ったりします。 血液のかたまり(血栓)が肺動脈を塞ぎ、深刻な状況を引き起こす肺塞栓症について、 下肢静脈瘤が直接影響を与える場合もあり得ますが、それはごくまれなケースです。 ただし、下肢静脈瘤にかかっている人は、 深部静脈に負担がかかり、そこに血栓ができやすいという報告もあります。その血栓が肺動脈を詰まらせてしまうのが、いわゆるエコノミークラス症候群です。つまり、エコノミー症候群の間接的な原因にもなり得ると言えます。



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